福祉社会学研究
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Print ISSN : 1349-3337
特集 「共助」の時代・再考
償いでもなく、報いでもなく、必要だから
公的扶助の〈無条件性〉と〈十分性〉を支援する
後藤 玲子
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2010 年 7 巻 p. 24-40

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抄録

社会の中に,生活に困っている人がおり,その人を援助する必要があ

るとして,私的な援助あるいは宗教的な慈善ではなく,なぜ, どのような

根拠で,国の責任で扶助することが要請されるのだろうか。本報告の目的

は,分配的正義の理論を参照しつつ,公的扶助の正当性をめぐる論拠を探

り当てること,より具体的には,フライシャッカーの批判を手がかりに,

ロールズ正義論とセンの潜在能力アプローチの射程を確認することにあ

る。個々人の必要に応じた格差的な資源分配を,無条件に,十分になすこ

とが,なぜ, どのような論拠で正当化されるのか, この間いに関する本稿

の暫定的な結論は,ロールズの「何人も,他の人々の助けにならないかぎ

り・・・,本人の功績とは無関係な偶然性から便益を受けてはならない」

という命題を,アリストテレスの拡大解釈に基づく「リスクの前での対称

性」,「広義の責任概念」,「広義の貢献概念」などで補助した上で,センの

福祉的自由への権利という考え方で補おうというものである。後者は,個

人の利益(interest) と意思(will)の尊重というきわめてオーソドックスな,

けれども両立困難な近代の概念を具体化しようという試みである。

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