抄録
アサガオでは、花の色や模様のみならず、花や葉の形態においても、さまざまな変異体が江戸時代から現在まで保存されている。アサガオの笹 (delicate, dl) 突然変異体の葉は、笹の葉のように裂片が細くなり、花では、花弁が5裂し、花筒が長いという特徴がある。これまでに単離されたアサガオの突然変異体の多くは、原因遺伝子に共通の末端配列を持つTpn1ファミリーに属するトランスポゾンが挿入していた。dl変異体を持つ系統には、体細胞復帰変異体がしばしば観察される易変性の系統があることから、笹の原因遺伝子もTpnの挿入によって引き起こされていることが予想された。STD法を用いて、体細胞復帰変異体から由来する野生型とdl変異体のTpn挿入部位の比較を行った結果、笹変異体にのみTpnが挿入されているゲノム領域を見いだし、笹変異体の原因遺伝子を単離したところ、シロイヌナズナのFILAMENTOUS FLOWER (FIL)、キンギョソウのGLAMINIFOLIA (GRAM) のオーソログをコードしていた。FILやGRAMは植物の向背軸形成に関与するYABBY familyに属する転写因子で、葉の背軸側で主に発現する。葉の扁平な構造を形成するには、向背軸を決定する因子が、向軸側、背軸側それぞれでバランス良く発現することが重要であり、そのバランスが崩れることによって、葉身が細くなっていると考えられた。