抄録
海洋性珪藻 Phaeodactylum tricorunutumを用いたこれまで塩応答機構に関する研究結果から、 細胞の生育及びPSII の活性は環境中の Na+ の増大及び Cl- の低下によって促進され、 [Na+] が上昇すると、細胞内のNa+は葉緑体周辺区画から葉緑体に移動することが明らかになっている。これらの結果から、P. tricorunutum は好塩性生物であることが示唆される。本研究では、単離チラコイド膜を用いてNa+ の光合成機関に与える影響を評価した。
PSII の構成因子について配列比較を行ったところ酸素発生複合体の中心因子である psbO の平均等電点が P. tricorunutum では緑藻や高等植物などと比べて低いことが示された。酸性度の高い部位の詳細を知るために立体構造予測に基づく解析を行ったところPSIIコアとの結合部位に連続した3個のアスパラギン酸が存在しており、この部位で特に酸性度が高くなっていることが示された。この結果から、P. tricorunutum の酸素発生複合体はNa+ によって安定化する可能性が考えられた。そのため、酸素発生系のNa+ 依存性を生化学的に解析している。一方、ゲノム解析の結果植物ゲノム上は見られない [Na+] 依存的イオン輸送体の遺伝子が多数確認され、P. tricorunutum が動物細胞に近いシステムを持つ好塩性生物であることが強く示唆された。