抄録
オオムギは塩ストレスを受けると、細胞内に適合溶質であるグリシンベタイン(ベタイン)を多量に蓄積し、吸水阻害や代謝障害を軽減する。植物の耐塩性と適合溶質の合成・蓄積は主に細胞レベルで詳細に解析されているが、組織および植物全体での動態には不明な点が多い。そこで本稿では、オオムギの組織および植物体レベルにおけるベタインの合成・蓄積機構を明らかにすることを目的とした。塩ストレスを与えたオオムギにおけるベタインの分布と、ベタイン合成の最終段階を触媒するベタインアルデヒド脱水素酵素をコードするHvBADH2遺伝子の発現を器官別に調査した。その結果、地上部において、ベタインは若い組織に多く蓄積されており、HvBADH2の発現レベルも成熟葉から若葉へと経時的に変化していた。また、組織におけるHvBADH2 mRNAの局在をIn situハイブリダイゼーションにより観察したところ、葉では主に葉肉細胞で恒常的に発現し、塩ストレス下では師部においても強いシグナルが見られた。根では、根端の内皮および外皮細胞で強いシグナルが見られた。今後、組織におけるBADHタンパク質、ベタイン合成を誘導するH2O2の局在についても調査する予定である。