抄録
PsbTcは光化学系II複合体(PSII)の低分子量サブユニットの一つであり、膜貫通ヘリックスを一つだけもつ。好熱性ラン藻Thermosynechococcus elongatusのpsbTc遺伝子破壊株の解析から、PsbTcはPSIIの二量体化に関与し、またPsbMがPSIIに結合するのに必要であると考えられている。本研究では好熱性ラン藻T. vulcanusのpsbTc遺伝子にクロラムフェニコール耐性カセットを挿入して破壊した株(以下変異株)からPSIIを単離・精製し、その結晶化を行った。イオン交換クロマトグラフィーによる分離の結果、変異株では野生株と比べてPSII単量体の割合が増加しているが、二量体の方が多く存在していることが示され、またPSII二量体の活性は野生株のものの7割程度だった。結晶化はハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて行い、3.8ÅのX線回折分解能を示すPSII二量体の結晶を得ることに成功した。結晶構造解析の結果、変異株のPSIIではPsbTcの膜貫通ヘリックスに対応する電子密度が観測され、ストロマ側のループ部分の電子密度は消失していた。また、PsbMに対応する電子密度も確認された。これらの結果は、PsbTcのループの欠失はPsbMのPSIIへの結合に影響を与えないが、PSII二量体を部分的に不安定化させ、単量体の割合の増加や活性の低下を導いたことを示唆する。