抄録
イネ (Oryza sativa L.) にイネrbcS cDNAをオウン・プロモーターの制御下で発現させる遺伝子コンストラクトをアグロバクテリウム法にて導入した.T0およびT1世代において,葉身全窒素に占めるRubisco態窒素の割合を指標としたスクリーニングを行い,その割合が野生型の120%以上となるものを選抜した.T2世代において,rbcS遺伝子ファミリー(5遺伝子)のうち1つの遺伝子のmRNA量が野生型の3.9-6.2倍となったが,他の遺伝子のmRNA量に変化は認められなかった.その結果,rbcSの全mRNA量は野生型の2.1-2.8倍となった.また,rbcLのmRNA量は野生型の1.2-1.9倍となった.葉身Rubisco含量は葉面積当たりで野生型の30%程度,葉身窒素含量当たりで10-20%にまでそれぞれ有意に増加していた.しかしながら,葉身Rubisco含量が律速因子となる光飽和・低CO2分圧下での光合成速度には,形質転換体と野生型との間で差は認められなかった.以上の結果から,イネにおいてrbcS遺伝子の過剰発現により,rbcL遺伝子の発現が転写産物レベルでup-regulateされ,Rubiscoホロエンザイムの量が増加することが明らかとなった.しかしながら,葉身Rubisco含量の増加による光合成能力の向上は,低CO2分圧下においても認められなかった.