抄録
高等植物において、低酸素条件下での生存には、アルコール発酵が重要である。このアルコール発酵において、アルコール脱水素酵素(ADH)は、解糖系で利用されるNAD+の供給の為に必要不可欠な酵素である。このADH活性が低下し、冠水条件下にて子葉鞘の伸張が抑制される表現型を示すreduced adh activity (rad)変異体が過去に報告されている。この変異体の原因遺伝子を調査した結果、Adh1遺伝子の塩基配列中に生じた1塩基置換が、ADH活性の低下の原因であることが明らかになった。また、rad変異体では子葉鞘におけるATP濃度が野生型に比べ著しく低下していた。
私たちは更に、ADH活性の低下により変異体の子葉鞘でどのような事が生じているのかを理解するため、まず遺伝子発現の変化に着目した。そのために、レーザーマイクロダイセクション法を用い、吸水後1日の野生型またはrad変異体の種子胚より子葉鞘のみを単離した。それぞれの子葉鞘より抽出したRNAを用い、イネ22KオリゴDNAマイクロアレイを行い、p-valueが0.05以下の遺伝子を選抜した結果、変異体でmRNAの蓄積量が多かった遺伝子が317個、野生型で多く蓄積されていた遺伝子が153個存在した。今後はこれらの遺伝子について詳細な解析を行う予定である。