抄録
植物ではAタイプサイクリン依存性キナーゼ(CDKA)が細胞周期で中心的な役割を果たしている.CDKの活性化にはサイクリンの結合を必要とするが,それ以外にも阻害因子の結合やCDKのリン酸化によっても制御され,周期的な活性を示す.近年,シロイヌナズナにおいてさまざまな細胞周期制御因子の変異体の解析が行われ,細胞周期制御因子が植物の発生に深く関わることが明らかとなってきた.その中でもわれわれはシロイヌナズナで唯一のCDKAであるCDKA;1の変異体の解析を行っている.
シロイヌナズナの雄性配偶体である花粉粒は3細胞性で,減数分裂後,花粉の発芽前に2回の体細胞分裂を行い,1個の栄養細胞と2個の精細胞となる.一方,cdka;1-1変異体の花粉は2細胞からなる.これは減数分裂後の2回目の体細胞分裂である第2花粉分裂(PMII)が起こらず,精様細胞として残るためと考えられる.本研究ではCDKA;1のT-loop内に保存されたスレオニン残基をリン酸化されないアラニンに置換したCDKA;1(T161A),あるいはリン酸化を模倣したグルタミン酸に置換したCDKA;1(T161E)をcdka;1変異体に導入し,PMIIの不全を相補するか解析した.その結果,T161Aは相補しないのに対して,T161EはPMIIの不全を相補し,成熟花粉は3細胞となった.このことから少なくともPMIIの進行にはCDKA;1がリン酸化されることが必要であると示唆された.