抄録
近年注目の集まっている植物のメタボローム解析の応用展開のひとつとして、植物の生産する有用物の機能性・生産性の向上が挙げられる。その目的を達成するには、植物体全体の代謝ネットワークと各代謝産物の流量を解析する手法(=フラックス解析)が不可欠である。そこで我々は原子情報選択性の高い核磁気共鳴装置(NMR)法による代謝フラックス解析法の構築を目指している。昨年度の大会では、シロイヌナズナT87培養細胞の継代する時期や培地の容量等培養条件の最適化を行い、フラスコ内の閉鎖系で炭素源(グルコース)の代謝による分配を経時的に解析するため、単純化したモデル系を立ち上げたことを報告した。今年度は、[13C6]glucoseで代謝産物群の均一安定同位体標識化を施した植物細胞のリン酸バッファー粗抽出物を用い1H-13C HSQC、HCCH-TOCSY、HCCH-COSY、HCACO等多種のNMR測定法を駆使し、検出可能な代謝産物群について行った一斉帰属について報告する。これらの方法により、シグナルのオーバーラップが回避され、ユニークに帰属される化合物数が増加する。さらに、上述の方法で同定された代謝産物群の経時的な動態変化を原子レベルで代謝経路に投影した、各化合物の1H-13C HSQC交差シグナル強度を用いた新規フラックス解析法についても議論したい。