抄録
トウモロコシC4型PEPC、トウモロコシC4型PPDK、ソルガムNADP-リンゴ酸脱水素酵素(MDH),イネC3型NADP-リンゴ酸酵素(ME)を共発現する形質転換イネの光合成特性を調べた。PEPC単独を高発現させると、すべてのCO2濃度域(Ci = 50-800 ppm)でみかけの炭酸固定速度が低下する。これは、PEPC高発現による明呼吸の促進とRubisco活性(炭酸固定効率)の低下に起因することがわかっている。4種類の酵素を共発現する形質転換イネでは、明呼吸速度はPEPC高発現イネとほぼ同じだったが、Rubisco活性が増大した。みかけの炭酸固定速度もすべてのCi域で増大し、非形質転換イネと同等あるいは若干上回るレベルにまで回復した。この光合成促進は高Ci域で顕著であること、CO2補償点はほとんど変わらなかったことから、4種類のC4酵素を高発現させてもRubisco近傍のCO2濃度は変化しないことが示された。炭素同位体分別値は4種類の酵素いずれを高発現させても変化しなかったが、四重形質転換イネでは若干増大した。PEPCとMEを共発現する形質転換イネ(PEPC + ME、PEPC + PPDK + ME)でも増大が認められたことから、炭素同位体分別値の増大は疑似C4光合成回路の駆動によるものではなく、導入したPEPCとMEが関与する何らかの代謝経路によるものと考えられる。