抄録
海洋性藻類は地球上の有機物生産の25%を担う重要な生物であるが、この生物のCO2濃度に対する応答はまだ詳細に調べられていない。本研究では、海洋性珪藻の大気CO2濃度変化に対する応答機構の体系的な理解を目的として、海洋性珪藻phaeodactylum tricornutumにおけるCO2応答性遺伝子の半網羅的な解析を行なった。5% CO2 ( 高CO2) 及び現在の大気条件である0.038% CO2 (低CO2) に順化させた細胞から取得したRNAを用いて、cDNA-AFLP ( cDNA-amplyfied fragment length polymorphism ) 解析を行い、現在までに49のCO2応答性遺伝子断片の単離に成功した。このうち低CO2で抑制されるものは、28あり、その中には、ホスホグリセリン酸キナーゼやトランスケトラーゼなどのカルビン回路に関連因子をコードするものが含まれていた。低CO2で誘導されるものは21あり、その中には、ラン藻で低CO2での抑制が確認された亜硝酸還元酵素やバクテリア特異的な遺伝子であるアンモニア依存型アスパラギン合成酵素などが含まれていた。この事から、海洋性珪藻の窒素代謝系はラン藻とは異なるCO2応答をすることが考えられた。また、ラン藻や緑藻などのCCM(無機炭素濃縮機構)関連因子の珪藻で見出されたホモログについても討論する。