抄録
植物細胞の分化に関しては、植物ホルモンに依存した組織・細胞培養によるさまざまな細胞分化誘導系がこれまでに開発され、利用されてきた。近年、細胞分化のマスター因子と呼ばれる転写因子群の同定が進んでおり、これらを利用することによって、これまでの手法では誘導が困難であったタイプの細胞分化の誘導が可能になると考えられる。そこで本研究では、後生木部細胞の分化を誘導する転写因子を、シロイヌナズナ培養細胞に導入し、これまで植物ホルモンで分化を誘導することが困難であった後生木部細胞の分化誘導系を開発した。この形質転換細胞株では、培養開始後24時間目から48時間目の間に後生木部細胞が生じ、分化率および同調性に関しても高い値が得られた。この実験系は、後生木部細胞の分化過程において二次細胞壁がどのようにして形成されるのか、また、細胞分化に伴うプログラム細胞死がどのようにして実行されるのかといった、細胞レベルでの現象を解析するための強力なツールになると期待できる。その一例として、後生木部細胞の二次細胞壁形成制御機構に関して、細胞骨格に着目した解析もあわせて報告したい。