抄録
多くの高等植物は高塩環境で生育が阻害され、やがて枯死してしまう。生育阻害は、浸透圧上昇による吸水阻害、細胞質におけるNa+濃度増加によるK+/Na+比の減少、あるいは活性酸素の増大により引き起こされると考えられている。植物細胞では細胞質でのNa+濃度の上昇を防ぐ機構の一つとして液胞でのNa+の隔離がよく知られている。我々は、マングローブ培養細胞、オオムギやシロイヌナズナの根において塩ストレス下における塩蓄積に伴い、細胞内の液胞体積が急速に増大していくことを見出した。またその際、液胞小胞が中心液胞に融合していくことから、液胞への小胞輸送系が液胞の塩蓄積に関与していることが示唆された。
そこで本研究では小胞・液胞動態と液胞へのイオン隔離の関係を明らかにすることを目的として、シロイヌナズナ植物個体とその培養細胞Deep株を用いて実験を進めた。シロイヌナズナ芽生えに塩ストレスをかけると根端の細胞において液胞が増大し酸性小胞の動態も活発化した。また同様に培養細胞Deep株でも液胞の増大が確認され、その液胞にNa+が蓄積していることが蛍光色素を用いて観察された。また、その際、液胞まわりにNa+の蓄積を示すドット状の蛍光が観察された。今後さらに高塩環境下における小胞輸送、イオン輸送活性、輸送体タンパク質の挙動を解析する予定である。