抄録
植物のスフィンゴ脂質には、long-chain base(LCB)部分のC4位が水酸化されたものが多く存在する。イネではLCBのC4位の水酸化を触媒する5つのジヒドロスフィンゴシンC4ハイドロキシラーゼ(DSH)の遺伝子(OsDSH1-OsDSH5 )が存在する。これらのうちOsDSH1とOsDSH4は酵母のDSH欠損変異を相補することがわかった。OsDSH1の発現部位を解析したところ、OsDSH1は維管束や分裂組織、雌しべの柱頭で組織特異的な発現を示していることがわかった。そこで、植物でのOsDSH1の生理機能を解析するために、RNAiを用いたOsDSH1の発現抑制体を作製した。発現抑制体は、栄養生長期では野生型との差異は認められなかったが、稔実率の顕著な低下が認められた。発現抑制体の緑葉では、OsDSH1の発現量の減少に連動したOsDSH2の発現量の増加が認められ、これがOsDSH1の減少を相補している可能性が示唆された。一方、柱頭ではOsDSH1の発現抑制に連動したOsDSH2の発現量の上昇は観察されなかった。これらの結果から、発現抑制体での稔実率の低下は柱頭での OsDSH1の減少による機能低下によるものであると推察された。これらの結果からOsDSH1あるいはこれによって作られる物質が種子の稔性に関与している可能性が強く示唆された。