抄録
茶は栽培条件によりその味や香り、葉色が変化することが知られている。 植物にとって光は、光形態形成や光合成のために必須である。シロイヌナズナを例にとると、弱光条件下では徒長した胚軸や子葉の淡緑色化を引き起こす。一方、チャの新芽の場合、例えば被覆処理により光量を制限することにより葉色の緑化がみられる。この現象は昔から経験的に知られており、 玉露やてん茶などいわゆる商品価値の高いお茶は、被覆栽培されたチャ葉から生産されている。また、被覆栽培により,チャ葉中のアミノ酸含量は増加する一方で,タンニンの含量は低下することが知られている。本研究では、被覆栽培によるチャ葉への影響について、葉中成分の分析、形態学的な解析、遺伝子レベルでの解析を行うことで、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。
まずはじめに、新芽の生育期に被覆処理を行うことでチャの葉色の改善を試みたところ、数日の被覆処理で顕著な効果が見いだされることがわかった。そこで、 高速液体クロマトグラフィー法により、クロロフィルおよび各種カロテノイドの色素類、さらにカテキン類の定量分析を行った。また、光学および電子顕微鏡により形態学的な解析を行った。その結果、通常のすなわち無被覆栽培条件下では形態的に異常な葉緑体が多く観察されたことから、新芽の発達時期の条件下では光が強すぎることが原因となり緑化が阻害されていると考えられた。