抄録
リンゴなどのバラ科果樹は,ソース葉でスクロースに加えソルビトールを合成し,シンク器官へと転流するというユニークな糖の合成・転流機構を持つ.このためバラ科果樹は,スクロースのみを転流する植物に比べ,高い光合成能力を持つと言われている.また,ソルビトールは乾燥ストレスや低温ストレスに対する適合溶質として働くことや,ホウ素の移動を促進するなどの有用性も報告されている.我々はリンゴにおけるソルビトール合成の鍵酵素であるソルビトール-6-リン酸脱水素酵素(S6PDH)の遺伝子をシロイヌナズナに導入し,非ソルビトール植物におけるソルビトール合成能力の付与を試みた.プロモーターには,ソース葉特異的にS6PDHを発現させる目的に,クロロフィルa/b 結合タンパク(cab)プロモーターを用いた.S6PDHの導入が確認できた個体を6系統得たため,葉内のソルビトール含量を測定したところ,1系統ではソルビトールがほとんど検出できなかったが,他ではソルビトールの合成が確認できた.ソルビトール合成がほとんどみられなかった系統の表現型は野生型と変わらなかったが,他のS6PDH導入系統の生育は著しく悪く,成育中に枯死するものも多かった.それらの系統の葉は小さく肉厚になり波打っており,花成が早まる傾向が見られた.