抄録
抗体を植物体内に導入しin vivoで標的物質の機能を抑制することにより個体に新たな機能を持たせる手法をイムノモジュレーション(IM)という。私たちはこれまでに,シロイヌナズナとタバコにおいて抗活性型ジベレリン(GA)抗体を発現させるIMにより,矮化などGA作用が低下した植物体の作出に成功している。またGA生合成前駆体であるGA24に対する抗体を用いたIMにおいても矮性タバコが作出されたが,シロイヌナズナにおいてはGA24抗体が蓄積せず抗体の効果が認められなかった。今回,GA24抗体をGFPとの融合タンパク質として発現させることによって抗体の安定な生産が可能になり,その結果GA欠損と考えられる形質を示す植物体を得ることに成功した。これらの植物体では,抽苔期の遅延に伴うロゼット葉の増加に加え,主茎の生長が早期に終了し,その一方で側枝は正常に伸長するなど,抽苔期に特徴的な表現型が現れた。この形質は抗活性型GA抗体を用いた場合に植物体が全体的に小さくなる形質とは明らかな差異があった。抗GA4抗体は活性型GAの活性発現を抑制するのに対し,抗GA24抗体は前駆体から活性型ジベレリンへの変換を抑制するという違いがある。両抗体による形質の差異は,抗体の生産およびGA生合成の調節様式を反映したものと考えられ,そのメカニズムの解明には両者の時間的,空間的な詳細な解析が必要である。