抄録
チオレドキシンは生体内で還元調節を仲介する分子の一つであり、他の分子のジスルフィド結合を還元することで、相手分子の機能を制御する。植物では葉緑体、細胞質ゾル、細胞膜やオルガネラ膜にある種々の分子の機能が、チオレドキシンで還元調節されることが明らかにされている。
私たちは膜輸送体やレセプターなど細胞機能に重要な分子が存在する細胞膜に着目し、チオレドキシンと相互作用する分子を網羅的に捕捉して、これらの分子のレドックス調節を生化学的に解析してきた。その結果として、新たに細胞膜アンカー型カルシウム依存キナーゼ(CDPK)が、チオレドキシンによりレドックス調節されることを in vitro の実験で明らかにした。
シロイヌナズナCDPKのリコンビナントタンパク質を作製し、非特異的基質のリン酸化活性を測定した。リン酸化活性は、酵素の酸化処理により処理前の10%以下に低下したが、酸化型酵素をチオレドキシンで還元すると、酸化処理前の90%まで回復した。つぎに、酸化型と還元型酵素のペプチドマッピングを行い、チオレドキシンが作用するCys残基のペアを同定した。Cys残基のペアはキナーゼドメインの活性中心の近傍にあり、互いに近接していることが分った。さらに、保存Cys残基を他のアミノ酸残基に置換して、変異酵素がレドックス調節されるかを調べている。これらの結果をあわせて、CDPKのレドックス調節の分子機構について議論したい。