抄録
チミジンの類似物質である5-ブロモデオキシウリジン(BrdU)は、発生・成長の様々な側面に特異な影響を及ぼすことが報告されているが、その作用機作はよくわかっていない。シロイヌナズナの組織培養系では、BrdUを処理する条件(タイミングと濃度)によって、シュート再生の促進および阻害、脱分化の阻害、細胞増殖の阻害などが観察される。bro1とbro2は、このうち脱分化への影響を指標に単離したBrdU耐性変異体である。これまでの解析で、bro1ではRNA結合タンパク質UBA1aをコードする遺伝子に、bro2ではチミジンキナーゼをコードする遺伝子に、BrdU耐性の原因と思われる点変異を見出している。
現在、これらの候補遺伝子にT-DNAが挿入されたノックアウト系統の解析を進めている。胚軸のカルス化のBrdU感受性を調べたところ、BRO1候補遺伝子のT-DNA挿入変異では、ホモ接合の場合に部分的なBrdU耐性が見られたほか、ヘテロ接合の場合にも弱い耐性が見られた。一方、BRO2候補遺伝子のT-DNA挿入変異は、ホモ接合のときにのみ、BrdUに対する明瞭な耐性をもたらした。これらの変異体についてさらに解析を行い、これまでに得られている結果と併せて、BrdUの脱分化阻害作用の分子機構を考察したい。