抄録
フィチン酸(イノシトール6リン酸)は、myo-inositol環に存在する6つのヒドロキシル基全てにリン酸基が1つずつ結合した低分子で、植物では種子におけるリン酸貯蔵物質として知られている。最近、シロイヌナズナのオーキシン受容体であるTIR1の結晶解析により、フィチン酸がTIR1の結晶内に存在する事が報告された。しかし、イノシトールリン酸(IPs)の細胞内生合成過程に関しては、なお不明の点が多い。
私達は、植物細胞におけるフィチン酸の生合成を空間的に解明するために、IPs代謝に関わると考えられる酵素5種それぞれにGFPを繋げた融合タンパク質を、シロイヌナズナ培養細胞Deep株に一過的に発現させた。その結果、今回調べた全ての融合タンパク質は、cytosolに局在している事が観察された。この事から、シロイヌナズナの培養細胞においては、IPs代謝は主にcytosolで行われている事が示唆された。一方、フィチン酸は小胞体や液胞に存在している事が報告されている。そこで、Deep培養細胞でのフィチン酸の細胞内局在を決定するために、液胞を単離し、液胞内のフィチン酸濃度とプロトプラスト内のフィチン酸濃度を比較する事を試みた。さらに、今回調べたGFP融合タンパク質が全てcytosolに局在していた事から、それぞれの酵素間の相互作用について検討しているので、それについても報告する。