抄録
地下水のヒ素汚染は最も深刻な環境汚染問題の1つであり、世界各地で数千万人に及ぶ人々が慢性中毒と発ガンのリスクに曝されている。またこれらの地域では米などの農作物を介して多量のヒ素が摂取され、問題をより深刻にしている。ヒ素は畑土壌中では五価のヒ酸As(V)と三価の亜ヒ酸As(III)の形態をとるが、水田ではほとんどAs(III)として存在している。植物はAs(V)を高親和性リン酸輸送体を介して吸収するが、As(III)の吸収に関わる輸送体は解明されていない。しかし、最近我々が報告したイネのケイ酸輸送体Lsi1、Lsi2は、As(III)の吸収と排出に関わる細菌の輸送体GlpF、ArsBとそれぞれ類似性がみられた。本研究ではlsi1、2変異株を用いてケイ酸輸送体のヒ素吸収への関与について検証した。
水耕栽培による短期間のAs(III)吸収実験では、lsi1、lsi2変異株ともに地上部へのヒ素蓄積量が野生型の半分程度に低下した。またケイ酸の添加によって野生型のヒ素集積量は減少したが、変異体は影響を受けなかった。これらの結果はLsi1、Lsi2がケイ酸だけでなくAs(III)の吸収にも関与していることを示唆している。Lsi1を発現させた酵母とアフリカツメガエル卵母細胞はAs(III)の輸送活性を示したが、As(V)の輸送活性は認められなかった。現在、卵母細胞発現系を用いてLsi2のAs(III)輸送活性の測定を試みている。