抄録
従来のフェムト秒領域でのアップコンバージョン超高速時間分解測定系では、集光させた励起光を透明試料に照射して反対側に出る蛍光を検出する。このため、可溶化された透明試料以外の測定は困難であり、生体組織の非破壊測定は難しかった。これを可能にするため、反射型の光学配置を可能とするアップコンバージョン測定系を構築した。
この測定系を用いて、地衣類に共生する緑藻からのフェムト秒時間分解蛍光測定を行った。地衣類は乾燥環境でも生存可能であり、乾燥条件下では光阻害を防ぐために過剰な光エネルギーを非効率よく熱へと変換させる高速蛍光消光機構を持つ。50 psの時間分解能のストリークカメラによる蛍光測定から、乾燥地衣類は10 ps 程度の蛍光消光過程を示すことが報告されている。フェムト秒アップコンバージョン蛍光測定装置を用いて測定した結果、最も速い時定数として20 psを得た。これに対応するほかの成分の立ち上がりは観測されなかった。乾燥状態の地衣類では20 ps程度の時定数で大部分の蛍光が消光することが示された。新開発の反射型測定系の使用により生葉など不透明な生体試料の超高速反応をサブピコ秒の時間領域で測定可能となった。