抄録
光合成生物は、個体、細胞、分子のレベルで様々な環境順応を示す。中でもチラコイド膜の環境応答ダイナミクスを調べるために顕微分光技術の開発と葉緑体微細構造分析を行っている。今回我々は生理的条件に近い条件で葉緑体内部の精密な蛍光スペクトル (分解能1nm) を調べるためにラインスキャン二光子励起顕微分光装置を開発した。この装置では一点毎測定の顕微分光装置に比べ大幅に測定時間を短縮する事ができ、葉緑体内部三次元構造と蛍光スペクトルの時間変化について議論しやすい技術基盤が整った。
サンプルとしてはC4植物であるトウモロコシの葉緑体を選び、葉の一部を切り取って観察対象とした。室温で805nm、0.1psの近赤外パルスレーザーで励起したところ、蛍光スペクトルには少なくとも二つの成分があることが確認できた。これら二つの空間分布には違いが見られ、長波長成分は葉緑体全体に比較的均一に分布しているのに対し短波長成分は一部に集中する様子が見られた。波長から判断して、短波長成分は系2とそのアンテナ由来の蛍光で長波長成分は系1とそのアンテナ由来の蛍光であり、短波長成分の集中はグラナ構造を表していると推定した。我々はさらに組織依存性、試料採取直前の光強度の違いによって葉緑体全体の示す蛍光スペクトルや葉緑体内部蛍光強度・強度比の空間分布にどのような違いが現れるかを調べた。