抄録
アイスアルジーが生息する海氷下は弱光環境であり、しかも光強度の周期的な変化が存在する。光強度の変化と同期するように、アイスアルジーによる炭素固定速度も日周変化を示すことが知られている。アイスアルジーの炭素固定速度は光量に律速されており、より多くの光を光合成に利用するため、海氷下の弱光環境にあっても光強度に合わせて光合成系を調節していると予想される。そこで本研究では、サロマ湖の海氷下に棲息するアイスアルジーの光合成初期反応が光強度の日周変化に応じてどのように変化しているのかを、Pulse Amplitude Modulation(PAM)蛍光法により調べた。
その結果、最大電子伝達速度は日の出から増加し、正午頃最大になった後、日の入りに向けて減少するという傾向を示した。一方、光エネルギーの利用効率はそれとは逆の傾向を示した。350 μmol photons/m2/sの光照射下における非光化学的消光は、最大電子伝達速度と同じ変動パターンを示した。このことから熱放散機構の活性、つまり過剰な光を消散する能力が日周変化をすることが明らかとなった。
これらの結果から、アイスアルジーは海氷下でより多くの炭素を固定できるように、日周的な光強度の変化に合わせて光化学系に傷害が起こりにくいように、最大電子伝達速度、最大量子収率、熱放散機構を調和的に調節している事が示唆された。