抄録
成熟した雄性配偶体表面にある、脂質等を主成分とするポーレンコートは、UVからの保護や柱頭での水和作用に関わっており、欠損することで雄性不稔になる。ポーレンコート形成には、タペータム細胞内の特異的な脂質系オルガネラのエライオプラストとタペトソームが関わることが報告されている。我々は、これらの脂質系オルガネラからポーレンコートが形成されるまでのプロセスを明らかにすることを目的として、野生型シロイヌナズナおよびポーレンコート形成不全変異体を材料に、詳細な電子顕微鏡観察を行った。野生型の観察により、タペータム崩壊の前に成熟したタペトソーム内に小胞が出現しタペトソームが小さく分離する過程が見られること、タペータム細胞質が消失してオルガネラが雄性配偶体周辺に周りこんだ後にエライオプラストの最外膜が消失して2つのオルガネラは融合すること、など幾つかのポーレンコート形成のプロセスが明らかとなった。また、超長鎖脂肪酸合成経路に異常がある cer1-1変異体やイソプレノイド合成酵素欠損変異体群の観察を通じて、複数のイソプレノイド代謝産物がタペータム内のオルガネラ形成において異なる機能をもつことが明らかとなり、さらに、スクアレンより上流の代謝産物が脂質系オルガネラの主成分であることなどが示唆された。