抄録
Cyanidioschyzon merolae 10Dは核、ミトコンドリア、葉緑体が一つずつの極めて単純な細胞構造をもつ単細胞性紅藻である。我々は、この生物をモデルとした真核細胞の基本的構築に関する研究を進めるため、基盤となる形質転換技術の開発を進めており、今までに、外来遺伝子の導入が可能であることを示してきた。
今回我々は、C. merolaeの一過的遺伝子発現系の開発と条件検討を行なったので報告する。本研究では、微小管の構成タンパク質であるβ-tubulin遺伝子を用いて、DNA導入・発現の解析を行なった。まずβ-tubulin遺伝子を、大腸菌のプラスミドベクター上にクローン化し、C末端にヘマグルチン(HA)タグ配列を付加した。このプラスミドを、様々な条件で細胞に導入し、最も効率よくDNAが導入・発現する条件を、付加したHAタグを用いたウエスタン解析により検討した。細胞壁を持たないC. merolaeは、プロトプラストと同様の性質を持つと考えられた。20% ポリエチレングリコール(PEG)4000の条件でDNAを導入したところ、DNA導入後24時間の細胞で、HA-タグ融合β-tubulinの発現を確認した。さらにPEGの平均分子量と濃度について条件検討をした結果、30% PEG4000の条件で最も良いDNA導入効率が得られた。DNA導入後に蛍光抗体染色、顕微鏡観察を行ない、蛍光を発している細胞の数を計数した結果、この条件での形質転換効率は、2-10% (DAPIで染色された細胞の数に基づく)であった。