抄録
オルガネラゲノムDNAにコードされる遺伝子は80~200種類と非常に少ない。しかしながらシロイヌナズナの葉緑体プロテオーム解析では約1200種類以上のタンパク質が検出されている。これらのタンパク質の多くはオルガネラの起源となった細胞内共生細菌から、核に転移したものであり、翻訳後に移行シグナル配列によってオルガネラへ輸送される。このような核コード遺伝子がオルガネラで機能するために、オルガネラへの移行シグナル配列を獲得する必要がある。しかし、その獲得機構の全体像はいまだ明らかではない。
前年度本大会で我々は、生物ゲノムにはオルガネラ移行シグナルとなりうる配列が多数潜在的にコードされていることを報告した。また最近、イネのあるタンパク質遺伝子の一部の配列が本来とは異なる読み枠で、葉緑体に移行する別のタンパク質遺伝子の移行シグナルとして利用されていることが報告された(Ueda et. al., 2006)。このことは、潜在的な移行シグナルが実際に利用されうること示唆する。潜在的な移行シグナルが利用されるためには、移行シグナルの下流に遺伝子が移り、融合タンパク質として翻訳される必要がある。このような過程を想定した上で、原核生物と真核生物のタンパク質配列の比較を行った。その結果に基づき、「原核生物と真核生物では翻訳開始機構が異なることが、潜在的な移行シグナルの利用につながった」という仮説を提唱する。