抄録
生物にとって生長は基本的かつ重要な生理現象だが,植物では細胞分裂後の細胞体積の増加が特徴的であり,生長量の大部分を占める.それゆえ,細胞体積の大半を占める液胞は植物の形態形成のみならず,植物体の生長に重要な役割を果たしている.しかし,植物細胞の生長に伴う液胞発達の機構には不明な点が多い.液胞は最終的に吸水によりその体積を増加させることから,本研究では植物細胞の生長に伴う液胞の発達機構を解明するために液胞膜型アクアポリンに着目し,その生理機能の解析を行った.タバコ培養細胞BY-2において発現する液胞膜型アクアポリン(NtTIP1;1)を同定し,NtTIP1;1-GFPを過剰発現するタバコ培養細胞(BY-TIPG)を作出した.液胞発達過程を同調的かつ詳細に追跡できるミニプロトプラスト培養系を用いて,NtTIP1;1の過剰発現が液胞の発達に及ぼす影響を解析した.その結果,NtTIP1;1過剰発現細胞では野生株と比較して液胞の発達が促進された。その後の細胞体積増加を統計的に計測したところ,BY-TIPG細胞の方がその増加速度が亢進していた.さらに,プロトプラストから細胞伸長を高頻度に誘導する条件で培養したところ,BY-TIPG細胞では細胞伸長が促進されたのみならず,分裂した細胞の割合も約2倍に増加していた.以上の結果から,NtTIP1;1は細胞の肥大生長および細胞分裂に関与している可能性が示唆された.