抄録
葉緑体は、光環境に応じて細胞内の配置を変化させることが知られている。葉緑体は、細胞内で、弱光に集まり強光から逃げる。これらは、それぞれ集合および逃避反応と呼ばれ、光合成の効率化や葉緑体のダメージの軽減のために重要であると報告されている。暗黒下では、暗黒定位と呼ばれる定位運動が確認されており、ホウライシダの配偶体では隣接細胞の接着面に、シロイヌナズナでは細胞の底に移動することが報告されている。このような葉緑体の定位運動に関する研究は100年以上前から行なわれている。しかしながら、光以外の要因による葉緑体の細胞内配置の変化に関しては殆ど研究されていない。本研究では、ホウライシダ配偶体の葉緑体配置が温度によって変化することを見出した。配偶体を25℃・弱光下で処理したところ、集合反応が誘導されて、葉緑体は細胞の表面に集まった。配偶体を4℃・弱光下に移動させたところ、葉緑体は暗黒定位に似た配置をとった。我々は、この反応を低温定位と命名した。顕微鏡下で低温定位の経時観察を行なったところ、暗黒定位とは異なり、葉緑体は細胞壁の数カ所に分かれて凝集した。照射する光強度を上げたところ、反応が促進された。変異体を用いた解析により、光受容体フォトトロピン2が関与していることが分かった。以上、ホウライシダの葉緑体低温定位運動がフォトトロピン2を介して制御される低温応答性の現象であることが示された。