抄録
オオセキショウモは淡水産の単子葉植物で、葉の表皮細胞では青色強光によって葉緑体の逃避運動が誘導される。暗順応後の細胞では葉緑体が遠心力に対して抵抗するが、青色強光照射直後には抵抗しなくなる。この葉緑体のアンカーの解除は葉緑体の逃避運動に先立って起こる。
いくつかの植物で、青色光による細胞質Ca2+濃度の一過的上昇が報告されている。シロイヌナズナでは、この上昇は葉緑体運動の青色光受容体であるフォトトロピンを介して起こる(Harada and Shimazaki 2007)。一方で、光環境の変化に応じて、葉緑体がCa2+の取り込み/放出をおこなうという報告がある。
我々は、オオセキショウモ表皮細胞における青色強光による葉緑体逃避運動誘導にCa2+が関与している可能性について、阻害剤の効果を調べた。細胞膜Ca2+チャネルブロッカー(La3+)、細胞内ストアからのCa2+放出を引き起こすホスホリパーゼCの阻害剤(U73122)、光合成電子伝達阻害剤(DCMU)は、葉緑体逃避運動に対して、それぞれが加算的な抑制効果を示し、三種類の阻害剤が同時に存在すると逃避運動は全く起こらなかった。一方、青色強光による葉緑体のアンカーの解除はLa3+とU73122との同時処理で阻害されることが分かった。以上より、葉緑体の逃避運動誘導に、異なるストアからのCa2+動員が関与している可能性が示唆された。