抄録
これまでアラビドプシスやタバコを用いた遺伝解析により、抵抗性遺伝子(R遺伝子)の機能に必須な因子のスクリーニングが行われてきたが、シグナル伝達に関わる遺伝子はまだほとんど単離されていない。イネおいてはこれまで網羅的なスクリーニングが行われておらず、耐病性シグナルの分子機構は不明な点が多い。我々はイネ内在性のレトロトランスポゾンTos17を利用した遺伝子破壊系統を用いて、イネにおけるいもち病菌に対する真性抵抗性に必要な因子のスクリーニングを行った。一次スクリーニングとして約48,000系統について非親和性いもち病菌を接種し、抵抗性が減少する変異体を選抜した。得られた変異系統について、表現型とTos17との連鎖解析を行い、連鎖の見られた系統について隣接配列の決定を行った。第一染色体長腕上にTos17の挿入が複数認められる遺伝子が得られ、相補試験ならびに遺伝子発現解析から、得られた遺伝子が抵抗性遺伝子Pishであることが確認された。PishへのTos17の挿入部位は約3.8kbのORF内でランダムに起きており、また独立なTos17の挿入が非常に多数観察されたことから、PishはTos17によるホットスポットであると考えられた。また、Pishに変異を持たない罹病性系統も複数得られており、これらの変異系統では耐病性シグナル伝達に関与する遺伝子に変異が生じている可能性が考えられる。