抄録
病原菌感染やエリシター処理によって誘導される防御応答において、防御応答シグナル伝達に関わると想定される多くの遺伝子の発現が誘導されることが分かっている。こうした知見に基づき、イネ培養細胞においてキチンオリゴ糖エリシター処理によって発現が誘導される遺伝子をマイクロアレイにより解析したところ、細胞外ドメインにPRタンパク質の一種と相同性の高い構造を持つ受容体様キナーゼをコードする遺伝子が見出された。本研究では、この遺伝子の発現制御機構、コードするタンパク質の生化学的特性、防御応答における役割の解明を目的として実験を行った。
本遺伝子はキチンオリゴ糖の構造・サイズに依存して発現が誘導され、タンパク質合成阻害剤単独処理でも発現誘導が認められた。GFP融合タンパク質を用いた解析から、本遺伝子がコードするタンパク質はイネ培養細胞原形質膜に局在することが確認されたほか、植物体では、葉で強く発現していることも明らかとなった。また、大腸菌で発現させた細胞内ドメインのGST融合タンパク質は強い自己リン酸化能を示した。逆に、キナーゼの活性中心と予測されるアミノ酸に変異を導入したものでは、自己リン酸化能がほぼ消失した。現在、本遺伝子の過剰発現・ノックダウン型形質転換細胞を用いた機能解析、本受容体様キナーゼに対するリガンドの探索、また細胞内ドメインとの相互作用タンパク質の探索などを進めている。