抄録
全ての植物細胞が持つ一次細胞壁に対して二次壁は茎や胚軸、葯、鞘などの限られた組織にのみ形成される堅固な外骨格である。私たちはNST1、NST2、NST3(=SND1)転写因子が二次壁形成を根本的に制御するマスター転写因子であることを明らかにした。NST1プロモーターは花茎や胚軸の木部、葯、鞘で、NST2プロモーターは主に葯で、NST3プロモーターは花茎や胚軸の木部、鞘で活性が認められる。これを反映するように、NST1、NST2の二重変異体は葯内被細胞層の二次壁肥厚が抑制され葯の開裂が起きなくなる。一方、NST1、NST3の二重変異体は、花茎や胚軸において二次壁形成がほとんど見られなくなり植物体は直立できなくなるほか、果実鞘において道管以外の二次壁を形成する細胞すべてにおいて二次壁形成がみられなくなり鞘の自然開裂が起きなくなる。またNST遺伝子のいずれかを異所的に過剰発現させると、地上部の様々な部位で異所的な道管様二次壁肥厚が観察される。これらのことからNST転写因子は多重に機能重複して、道管以外で起きる二次壁形成の大部分を制御する木質形成のマスター転写因子であることが明らかになった。しかし、その上流、下流で働く因子については未だ不明確な部分が多い。本発表では他グループによって明らかにされた知見も交え、二次壁形成を制御する転写制御ネットワークの研究に関する諸問題を提起し議論する。