抄録
光化学系?において、水分子はH+、電子と酸素に分解される。この水分解反応はS状態と呼ばれる中間状態(S0-S4)のS状態サイクルによって行われることが知られているが、反応の分子機構にはまだ不明な点が多い。最近、この触媒中心がMn4Caクラスターであることが明らかになったが、これらに結合するアミノ酸側鎖とS状態サイクルにおけるそれぞれの役割については不明である。本研究では、Mn4CaクラスターのMnのリガンドであるD1のHis332をGlnおよびSerに置換した好熱ラン藻Thermosynechococcus elongatusの組換え体の光化学系IIを用いて、水の分解機能への影響を調べた。連続光照射下における酸素発生活性は、変異体ではWT*の70~80%であった。しかし、閃光照射下でのS3からS0への酸素発生キネティクスは、変異体とWT*で大きな差は認められなかった。S3とQB-の電荷再結合時の熱発光は、D1-H332QではWT*よりも6°C、D1-H332Sでは3°C低い温度に現れ、変異によりS3の酸化還元電位が高くなることが示唆された。また、D1-H332QではS2とQA-の再結合速度がWT*よりも速くなっていた。これらの結果から、His332は水の酸化反応過程において、S2およびS3の熱力学的性質に影響するが、S3TyrZ°からS0への遷移には影響しない可能性が示唆された。