抄録
ホスファチジルセリン(PS)は、シロイヌナズナの花の全膜脂質の約10%をしめる主要リン脂質である。花におけるPSの役割を明らかにするために、我々は、シロイヌナズナのPS合成酵素遺伝子(AtPSS1; At1g15110)に注目し、これまでに、AtPSS1はステージ8-11の葯で発現すること、T-DNA挿入欠失変異株pss1-1ならびにEMSによる欠失変異株pss1-2 のヘテロ変異株は、花粉成熟過程で一部の花粉小胞子の核が消失し、稔性のない萎縮花粉を生じることを明らかにしている(第49回日本植物生理学会)。また、大腸菌で発現させたAtPSS1はホスファチジルエタノールアミンをPSに変換する活性を有する(日本植物学会第72回大会)。
本研究では、新たにpss1ホモ変異株を単離した。ホモ変異株は葉が萎縮した小型の植物体となり、花を形成したが不稔であった。柱頭に花粉を付着していたが花柱内には受精胚が全く見られなかった。この結果は、ヘテロ変異株と野生型との相反交雑実験の結果よりも厳しい表現型であり、pss1親植物の異常を反映した結果であると考えられる。また、内容物が浸出したような花粉が観察されので、花粉の細胞壁強度に問題があると推定された。以上の結果は、pss1変異は花粉壁の成熟に必要なタペート層のはたらきにも影響する変異であることを示唆している。