抄録
光化学系 (PS) IIにおいて励起される電子がPS Iのそれよりも多いと、活性酸素が生成されうる。これを回避するためには、PS IIとPS Iの構築が同調していることが求められる。この調節に葉緑体遺伝子の転写を制御するσ因子 (SIG1) が関与していることを見いだした。すなわち、光が弱いとき、SIG1がリン酸化されることで光合成遺伝子の過剰な発現を抑制し、光が強くなったとき、脱リン酸化して遺伝子の転写を促進することで、効率的な光合成が維持されていると考えられる。
σ因子をリン酸化するタンパク質キナーゼを探索するために、コムギ無細胞タンパク質発現系とタンパク質間相互作用検出系であるAlphaScreen (PerkinElmer) を組み合わせた。RIKEN Arabidopsis Full-Length (RAFL) cDNAライブラリーを用い、SIG1と約800種のタンパク質キナーゼ遺伝子を発現させ、探索に供した。その結果、SIG1と相互作用を有する49種のタンパク質キナーゼ候補を得た。また、[γ-32P]ATPを用いたリン酸化アッセイにより、コムギ抽出液中にSIG1のThr-170をリン酸化する活性を見出した。これらの中からSIG1を特異的にリン酸化するタンパク質キナーゼを特定するとともに、コムギ抽出液中に見いだしたタンパク質キナーゼの同定を試みた。