抄録
植物の病害、環境ストレス応答において、Ca2+はセカンドメッセンジャーとして中心的な役割を担っている。ストレスを感受した細胞では、光合成活性の低下、サリチル酸などのホルモン合成、 活性酸素種の生成など、葉緑体に関係した様々な応答が起こる。しかし、ストレスに応答して葉緑体内Ca2+濃度がどのように変化するか、詳細は分かっていない。今回我々は、エリシターや過酸化水素、さらに高塩ストレスや浸透圧ストレスに応答して、ストロマ内のCa2+レベルが一過的に上昇する直接的な証拠を見つけた。例えば、植物にエリシター flg22を処理すると、まず数分後に細胞質Ca2+濃度の一過的上昇が起こり、引き続き 15-20分後にストロマ内Ca2+濃度のゆっくりとした上昇がみられた。一方、高塩ストレスに対しては、一過的な速いCa2+濃度変化が細胞質とストロマの両方で見られた。このことから、感染や環境シグナルを迅速に葉緑体へ伝達し、特徴的なストロマCa2+濃度変化を引き起こす機構の存在が強く示唆された。我々は、葉緑体局在タンパク質CASが細胞質Ca2+シグナルの発生と気孔閉鎖の制御に関わっていることを明らかにしている(Nomura et al., 2008 Plant J)。CAS欠失変異体ではストロマ内のCa2+変化が抑制されることから、ストロマ内Ca2+濃度の制御にCASが関わっている可能性が考えられる。