抄録
気孔は植物葉表皮に存在する水蒸気や二酸化炭素の通路となる孔辺細胞に囲まれた小孔で、乾燥・高濃度二酸化炭素・暗黒・菌の感染・植物ホルモンにより閉じる。いずれの場合もNOが関与しておりNOシグナル伝達は気孔のユビキタスな経路と考えられる。植物NOシグナル伝達研究の歴史はわずか10年に過ぎず伝達機構研究は緒に就いたばかりで多くの謎に包まれている。謎の一つに動物のNOシグナル主要経路である「NO/cGMP経路」が気孔で働いているかという問題がある。
cGMP合成酵素阻害剤でNO誘導性気孔閉鎖が阻害されるにも関わらず、細胞膜透過性cGMPは気孔の閉鎖誘導しないという矛盾する結果があり、この経路の存在に賛否両論がある。
澤らは(2007)cGMPが活性酸素とNOによりニトロ化されたニトロ-cGMPがマウス培養細胞で生成し二次シグナル分子として働くことを発見した。そこで我々はこの新シグナル分子が植物の気孔でも作用しているかを検討した。ニトロ-cGMPをシロイヌナズナ表皮に与えると気孔は閉鎖し、cADP-リボ-ス合成阻害剤であるニコチンアミドや8-ブロモ-cADPR、キレ-ト剤を加えると閉鎖が阻害されるが、ホスホリパ-ゼD阻害剤を加えても閉鎖は阻害されない。またニトロ化されないcGMPは暗所で気孔を開かせるがニトロcGMPはその能力はなく、気孔内で機能を分け合っていると考えられる。