抄録
オーキシンは植物の発生と生長の多くを調節している。近年の研究によって、F-boxタンパク質TIR1/AFBがオーキシンを介して転写抑制因子AUX/IAAと結合、分解することにより、DNA結合転写因子ARFの働きを制御するというメカニズムが明らかにされた。しかし、種子植物におけるオーキシンの信号伝達は複雑化しており、遺伝子重複の多さから全容の解明は困難なものになっている。陸上植物進化の基部に位置する苔類ゼニゴケは、単純な体制をもち、一般的に遺伝子重複が少ないことから、解析に適したオーキシン信号伝達機構をもつと予想される。我々はゼニゴケから、オーキシン信号伝達因子としてMpTIR1、MpIAA、MpARF1、MpARF2の4つの遺伝子を同定した。このことはゼニゴケのオーキシン信号伝達機構が基本的には種子植物と共通であることを示している。cDNA配列の解析から、MpARF1はシロイヌナズナのARF6、ARF8と同じくmiR167の制御を受ける可能性が示された。MpIAAは他植物種のAUX/IAAには存在しないグルタミンに富む領域をもつが、重要な4つのドメインを保存していた。また予測分解調節領域を改変したMpIAAをゼニゴケで発現させると、オーキシンに対する感受性が低下した。このオーキシン低感受性株を用いた、ゼニゴケ形態形成におけるオーキシン機能の解析についても報告する。