抄録
温帯性植物の凍結耐性は、低温に一定期間曝されると増大する(低温馴化)。低温馴化機構は非常に複雑であるが、細胞膜の脂質組成変化が凍結耐性の増大と密接に関わっていることが明らかになっている。最近、我々は、細胞膜に存在するステロール脂質とスフィンゴ脂質に富んだマイクロドメインの脂質およびタンパク質組成が低温馴化に応答して大きく変動することを明らかにした(Minami et al., 2009)。本研究では、低温馴化に応答してマイクロドメイン画分で増加するダイナミン様タンパク質1E(DRP1E)に注目し、低温馴化過程における凍結耐性増大に関わる機能を解析した。DRP1Eはシロイヌナズナに16個存在するダイナミンファミリータンパク質の一つであり、その転写産物量も低温馴化過程で増大する。DRP1E::GFP過剰発現体を用いてDRP1Eの細胞内分布を調べたところ、細胞膜付近にパッチ上に分布する様子が観察された。さらに、drp1e T-DNA 挿入変異体の凍結耐性を調べたところ、野生株と比較して低温馴化能力が有意に小さくなっていることが明らかになった。また、低温馴化後の細胞膜タンパク質組成についても、野生型とdrp1e T-DNA 挿入変異体の間で相違が観察された。以上の結果は、DRP1Eは低温馴化過程における凍結耐性増大に必要な細胞膜の改変に関与していることを示唆している。