抄録
植物細胞の多くは分化全能性を長く保持しており、比較的容易にこれを発現する。分化全能性発現において最初の鍵となるのは、脱分化から細胞増殖再活性化に至る過程である。胚軸片からの不定根形成の温度感受性を指標として単離されたシロイヌナズナの変異体root initiation defective 2(rid2)は、カルス形成初期段階に関しても強い温度感受性を示し、脱分化・細胞増殖再活性化の分子機構を探る糸口になると期待される。また細胞構造レベルでは、核小体の拡大という特徴的な異常を示す。これまでの解析から、RID2はメチルトランスフェラーゼ様の核小体タンパク質をコードしており、その機能はrRNAプロセッシングに必要であることがわかっている。
一方でRID2関連因子を遺伝学的に突き止めるために、rid2抑圧変異体を単離し、解析を行っている。抑圧変異体suppressor of rid two 1(sriw1)は、NAC転写因子をコードするAt5g09330内に、rid2抑圧に関わると思われる変異を有する。sriw1変異がカルス形成に異常の見られる他の変異体の表現型をも抑圧したことから、SRIW1は細胞増殖制御において重要な役割を担っていると推察される。本発表では、rid2とsriw1の解析を中心に、脱分化・細胞増殖再活性化の分子機構について考察したい。