抄録
イネをはじめとする多くの短日植物は、花芽形成するかしないかの限界日長が厳密に設定される特徴を示すが、その分子機構は明らかとなっていない。
我々は、イネのフロリゲンHd3a遺伝子の発現が、30分の日長の短縮により急激に誘導されるという、いわゆる限界日長による制御を受けることを報告する。このHd3aの発現は開花促進因子Ehd1に制御されると考えられた。活性型フィトクロムを欠損し日長非感受型早咲きを示すse5とその早咲き抑制変異体で時計構成因子OsGIを欠損するse5osgi-1二重変異体の解析から、Ehd1の発現は、青色光で転写誘導を受け、また、概日時計の制御で、主観的な朝に強く誘導されるという日長に影響されないゲート効果を示すことを明らかにした。(ゲート効果:光等の環境刺激への感受性が概日時計の位相の影響を受ける現象)一方で、野生型のEhd1の青色光による転写誘導は、長日条件および短日条件での赤色光の光中断により抑制された。この抑制には、フィトクロムを介した開花抑制因子Ghd7の転写誘導が必須であり、さらに、その光信号に対する転写誘導能は、長日条件では朝の、短日条件では真夜中の光によりピークとなるような日長で影響されるゲート効果を持つことを明らかにした。以上の結果を踏まえ、Hd3aの限界日長による転写制御がEhd1とGhd7の発現制御を介してどのように起こるのかを考察する。