抄録
近年、海洋性珪藻Phaeodactylum tricornutumにおいて、cAMPがセカンドメッセンジャーとしてCO2上昇に応答し、カーボニックアンヒドラーゼ遺伝子の転写を抑制することが明らかとなった。このことから、cAMP代謝系酵素の環境因子センサーとしての役割が注目されている。本研究ではP. tricornutumにおいて、cAMPを分解するホスホジエステラーゼ(cAMP-PDE)に着目し、その特徴付けを目的とした。珪藻破砕液内のcAMP-PDEの活性を測定した結果、可溶型と不溶型のcAMP-PDEの存在が示唆された。そこで、ゲノム情報からcAMP-PDE候補遺伝子を検索した結果、膜連結型は10種、可溶型は2種存在すると予測され、EST解析結果から、発現していることが確認された膜連結型8種についてクローニング及び半定量的RT-PCRを用いて、高CO2環境下と大気環境下での転写量を比較した。その結果、候補の多くが高CO2環境下で転写量が増加しており、興味深いことに8種全てがPDE活性ドメイン上流にサイクリックヌクレオチド合成酵素(NC)の活性ドメインと考えられる配列を有していた。NC/PDEの二機能性構造の意義とcAMPシグナル伝達機構の関係を解明するために、珪藻細胞内で候補遺伝子を発現させた。