抄録
活性酸素種(ROS)は、光合成や呼吸等の過程で不可避的に生成されてしまう有害物質として、長年その消去系の研究に焦点が当てられてきた。しかし、最近になって動植物の双方で、ROSを積極的に生成する酵素の制御機構やシグナル伝達系などの研究が飛躍的に発展しつあり、多面的な生理現象にシグナル分子として重要な役割を果たすことが明らかになりつつある。ROSを積極的に生成する酵素の多様性は植物において特に顕著で、植物の研究が突破口となって、全生物界共通の原理が解明されることも期待されている。またこの分野の発展には、日本の研究グループの貢献も大きい。しかし、これまで植物分野において、こうした切り口で企画されたシンポジウムはほとんど開かれて来なかった。
本シンポジウムでは、まず動物分野における活性酸素シグナル研究を概観する。続いて、植物の積極的活性酸素種の生成に関与するNADPHオキシダーゼの活性制御機構、環境ストレス応答・感染防御応答などにおける意義、植物のさまざまな生理機能を司る活性酸素の下流のシグナル伝達機構などについて、多角的に議論し、活性酸素シグナル研究の将来を展望したい。