抄録
植物細胞の中は非常に動的な空間である.その動きは原形質流動と呼ばれる細胞内運動に代表され,アクトミオシン系によって駆動されるオルガネラが細胞内を流動している.我々は小胞体が川筋を描くように流動する現象に着目し,細胞内で最大の膜系ネットワークをもつ小胞体が原形質流動に重要な役割を果たすのではないかと考えた.これまでの大会では,シロイヌナズナを用いて小胞体流動に寄与する主要なミオシンを同定し,このミオシン変異体ではアクチン束に沿った流動によって形成される小胞体の筋状分布(ER strand)が消失するのみならず,アクチン束の組織化まで影響を受けていることを報告した 1).小胞体流動機構の解明をさらに進めるために,われわれは,小胞体流動が抑制される変異体を単離した.ミオシン変異体とは逆に,この変異体ではER strandが異常に発達し,太いケーブルを形成していた.さらに,小胞体が細胞内で大きな凝集体を形成している様子も観察され, 他のオルガネラもこの凝集体中に巻き込まれていた.原因となるタンパク質は小胞体に局在することが明らかとなり,現在,流動における役割の解析を進めている.
1) Ueda et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. 107, 6894-6899.