抄録
カマイラズ(brittle culm, bc)は植物体の物理的強度が極端に低下した突然変異体で、二次細胞壁の構築に異常があると予想される。イネには原因遺伝子座が異なるカマイラズ変異体が少なくとも9種類(bc1, bc2, bc3, bc4, bc5, Bc6, bc7, bc10, bc12)存在するが、優性の変異体はBc6だけである。ポジショナルクローニングにより原因遺伝子を単離したところ、Bc6はセルロース合成酵素複合体の触媒サブユニットの一つであるOSCesA9をコードし、高度に保存されたアルギニン残基がグリシンに置換する点突然変異を起こしていることが分かった。Bc6変異体では、節間のセルロース含量が正常系統のイネ(台中65号)より31%減少していた。一方で、ヘミセルロース含量は48%増加していた。細胞壁多糖類の単糖組成には大きな変化が見られなかった。正常系統のイネにBc6変異遺伝子を導入したところ、Bc6と同様のカマイラズ形質やセルロース含量の低下が引き起こされ、厚壁組織の細胞壁が薄くなっている様子も観察された。BC6遺伝子は、節間、節、花の維管束組織で強く発現しており、COBRA様タンパク質をコードするBC1と発現パターンに相関があった。BC6はイネの二次細胞壁のセルロース合成に関与すると考えられる。