抄録
近年,潅水制限や塩類ストレス栽培により生産される高糖度トマトの需要が高まっている.この現象は栽培環境ストレスが果実の炭水化物代謝に作用した結果と考えられる.演者らは高糖度果実において果実への糖転流や果実発達初期のデンプン蓄積が促進されることを報告しているが,詳しい分子レベルの作用機序については依然として不明な点が多いのが現状である.そこで,本研究では,デンプン生合成律速酵素 ADP-glucose pyrophosphorylase (AGPase) 遺伝子に注目してトマト果実における発現制御様式の解明を行った.その結果,1) AGPase 大サブユニットの一つをコードする AgpL1 遺伝子,小サブユニットをコードする AgpS1 遺伝子の発現が塩ストレスにより特異的に促進されること 2) AgpL1 および AgpS1 の塩類ストレス応答にアブシジン酸 (ABA),浸透圧は関与しないこと 3) AgpL1 は糖により特異的に発現誘導される一方, AgpS1 は応答しないこと 4) AgpL1 の糖応答がヘキソキナーゼを介する糖シグナル経路により制御されている可能性が高いことなどが明らかになった.これらの結果より,トマト果実における AGPase 遺伝子群の発現制御には糖依存型と非依存型の二系統あることが明らかになった.