抄録
小胞体は分泌タンパク質の合成の場であり,高次構造形成に失敗した異常タンパク質を修復,分解する「品質管理」の機能をもつ.哺乳動物では,小胞体Hsp40であるERdj3が,小胞体Hsp70,BiPと協調し,小胞体品質管理で重要な役割を担っている.われわれは,ERdj3のシロイヌナズナオルソログAtERdj3Bの遺伝子破壊株(aterdj3b株)は高温条件である29°Cで種子ができない不稔となることを見いだした.aterdj3b株は,花粉の葯からの放出に欠損をもち,柱頭に付着する花粉粒の数が顕著に減少していた.29°Cで栽培したaterdj3b株の成熟した葯では,野生株でみられない異常な沈着物が観察され,このため花粉同士や花粉と葯壁などが癒着していた.AtERDJ3Bプロモータとレポーター遺伝子GUSの融合遺伝子をもつ形質転換体を用いた遺伝子発現解析の結果,AtERDJ3B遺伝子はタペート細胞で強く発現していることが明らかとなった.また,タペート細胞特異的なAtERdj3Bの発現により,aterdj3b株の29°Cでの不稔性および受粉過程の欠損は部分的に抑圧された.これらの結果から,小胞体品質管理がタペート細胞の機能発現に重要であることが示唆された.