抄録
オゾンは光化学オキシダントの主要成分であり、その濃度上昇により多くの植物種の葉に可視障害をもたらす。葉の可視傷害は植物の光合成能の低下を誘導するため、作物では収量の低下につながると考えられてきた。しかし、イネでは可視傷害の発現程度と収量低下割合との間には明確な相関は認められなかったことから、これらは別のメカニズムで調節されていると考えられる。本研究では、オゾンに曝されたイネの収量低下に関わる遺伝子座を同定するために、ササニシキ/ハバタキの染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いてQTL解析を行った。その結果、6番染色体後方のRM3430マーカー近傍に、オゾン曝露による収量低下に関与すると考える遺伝子座を確認できた。このマーカー近傍に存在するAPO1遺伝子は一次枝梗の発生に関与しており、これを介して収量に影響することが示されている。そこでAPO1の器官別発現解析を行ったところ、この遺伝子は幼穂で最も高く発現していた。また、幼穂においてオゾン曝露によりササニシキでは発現が上昇し、ハバタキでは顕著に低下した。このことから、オゾン曝露による収量低下は、一次枝梗数を調節するAPO1遺伝子の発現がオゾンの曝露で低下することにより引き起こされる可能性が示唆された。