抄録
基部陸上植物ヒメツリガネゴケにおけるアブシジン酸(ABA)の機能解析を目的に、ABAの代謝・不活性化に働くシロイヌナズナCYP707A3の過剰発現株を作出した。巨大葉緑体を持つ細胞が観察され、この表現型はABA添加により回復した。ABAが葉緑体の形態形成に関わる事が示唆されたため、野生型株を用いて詳細な解析を行った。まず、10μM ABAを投与したヒメツガネゴケ原糸体の葉緑体数を計測した。その結果、ABAの投与3日後までに葉緑体数が約二倍に増加した。ABAはヒメツリガネゴケ原糸体細胞の分裂も誘導することから、葉緑体の分裂は間接的な作用である可能性も考えられる。そこで、成熟して細胞分裂を行なわない茎葉体細胞を用いたところ、葉緑体数はやはりABA投与により約二倍に増加した。さらに、ABAシグナル伝達系の負の制御因子である PpABI1を欠損した株では、ABAを投与しない通常状態においても、野生株に比べて葉緑体数が約二倍に上昇している事が認められた。以上の結果から、ヒメツリガネゴケにおいてABAは葉緑体の分裂を誘導することが明らかとなった。